他人の言葉の使い方を非難するときは調べてからにしましょう

結構な昔話。確かアナウンサーの生島ヒロシ氏だったと思うが、宮沢りえ氏インタビューの言葉に突っ込んでいた。
「りえさんは全然大丈夫と言っていますが、本来全然は否定の時に使う言葉です」

そう言われてみれば、私もマンガ雑誌の裏に「全く簡単だ」という言葉が記載されていた時に、「全くって、否定の時に使うんじゃないの?」と思っていた。全然と全くは同義だろうから、生島さんの言葉が正しいんじゃないかと思った。しかし、よく考えてみると、全くという言葉は結構な頻度で肯定に使われているような気もする。調べようもないので、なんとなくモヤモヤした感じを抱えたまま何年か経過した。

インターネットが普及して、Googleが現れることによって、調べるコストが非常に下がった頃に「全然は否定にしか使えないのか」問題を調べてみたところ、使っても構わないというのが現状の通説のようだと判明した。明治時代には既に全然を肯定で使用している例はあり、我々が違和感を感じるのは、昭和期の教育の中で培われた言葉の感覚に依存しているようだった。
言葉のスペシャリストであるアナウンサーが、自分で調べたわけでもないのに、昭和期の教育をベースに「本来」とか言っちゃうのは、そこそこカッコ悪いような気がする。


ライフラインという言葉があり、阪神大震災からよく耳にするようになった。耳にする様になってから暫く後に、新聞のコラムにこんな内容が載っていた。

ライフライン和製英語扱いする人がいるが、それは誤りで、アメリカで用いられはじめた、ちゃんとした工学用語だよ」

このことも長い間気にはなっていたのだが、Googleの出現によって調べられるようになった跡に、日本のサイトを漁っても、あまり詳しい情報は見つからないので、earthquake lifeline で検索したところ
・そもそも米国発祥のライフライン地震工学というのがある。
・サンフェルナンド地震をきっかけに生まれた比較的新しい工学分野。
というのがわかった。たしかに和製英語ではない。
ということで、当時和製英語扱いしていたWikipediaを更新したりしてみたのであった。今の版記載のutilityと同義というのには賛成できない*1が、正確性は上がっているような気がする。
ネイティブスピーカーが知らない言葉や言葉の用法なんて腐るほどあるのに*2、ネイティブスピーカーが知らない用語を和製英語だというのは余りにもアホなのではないかと思う。


個人的には「百歩譲って」という言葉と「有言実行」という言葉に少し抵抗がある。どちらもパロディっぽい言葉なのに、元となった言葉「一歩譲って」「不言実行」を駆逐しそうに見える為だ。とはいえ、「大幅に譲歩する」「言ったことを実行する」に該当する言葉が世の中に望まれており、にもかかわらずそんな言葉が存在しなかったのかも知れず、非難すべき内容ではないだろう。


以上のように、他人の言葉の使い方を非難するのはなかなか難しいのだ。


ただし、「中抜き」だけはダメだと思うので積極的に非難しておこうと思う。本来、「生産者と消費者間で業者を用いずに直接取り引きする」だった言葉が、「生産者と消費者の間に業者が入り込んで、本来生産者が得るべき報酬を業者が抜き取ってしまう」という意味になってしまっている。全く逆の意味を持つ同じ言葉*3は流石に存在しちゃいけないんじゃないだろうか。中間搾取でいいじゃないか。まあ、中間搾取という言葉は非常に強いので、マスコミ屋さんが中間搾取業者様に忖度して、言い換えを行っているのだろうけれども。

*1:lifelineは災害を想定した用語なので

*2:全然関係ないがパタリロという漫画の「剔抉という言葉を知っていますか」というネタを思い出した

*3:同音対義語とでもいうべきだろうか。